2016/08/01

ページの端(pisforpage超短編)■見た目的に無理。 サイト未・なろう済

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 見た目的に無理。
 
 中学の時に好きだった男の子に言われた言葉だ。
 さすがに面と向かってではない。坂上君はそこまで鬼畜じゃない。
 ただ、隣のクラスの私がいつも坂上君を見ているのはバレバレだったらしくーー

「あの子いつも坂上のこと見てるよな。好きなんじゃね?」
「えーマジー坂上モテ男!」
「顔はふつーだけど意外と胸あるよな」
「胸っていうか全体的にデブじゃん」
「坂上クン付き合っちゃえよ」
 そんな周囲のひやかしに坂上君はこう答えた。
「ないな。見た目的に無理」

 その言葉は、冷たくて痛くて重かった。尖った氷が背中に突き刺さったみたいだった。
 ヒュッて変な声が出て「映画とかのやられ役みたいだな」って全然関係ないこと思ったのを覚えてる。
 
 ……そうして調理実習で作ったカップケーキの差し入れも、バレンタインデーも、卒業式の告白やボタンくださいイベントもスルーし中学時代は終わった。
 あ、でも彼の友達の「全体的にデブ」って悪口のおかげで痩せました。感謝はしてない。

 高校デビューでメイクにはまり、別人顔になった私は十年後、バイト先の喫茶店でよく来る坂上君に口説かれて思わず言った。
 
「あのー、覚えてます? 坂上君て中学の時わたしのこと『見た目的に無理』って言ってたんだけど」
「マジかー?!」
 その場にしゃがみ込んで頭を抱えた坂上君。
 ケケケ、苦しめ苦しめ。
 
 ここでキッパリ振ったら格好良く終わるんだけど、「この後時間ある?」って誘われてついてっちゃったのは好きだった男の子に告られて浮かれてたせい。
 
 連れて行かれたのは坂上君の家だった。
 ドアを開けたのはなんだか親近感の湧く顔をしたふくよかな女性。……あなたはわたしの生き別れのお姉ちゃんですか?
 
 そんなの想像つくわけないじゃーん!!

 中学時代のわたしが坂上君の兄嫁さんにそっくりだったなんて。
 反抗期真っ盛りの坂上君が、同居をはじめたばかりの義理のお姉ちゃんと距離を置きたがってたなんて。

「今まで十年も顔面コンプレックス抱えてきたんだから、これから十年ちやほやしてもらわないと収支が合わないよなー」
 横目で坂上君を見ながらわたしが言うと、坂上君はお代官さまーって感じで土下座して言った。
「十年でも二十年でもちやほやさせていただきます」

 ーーここまで言われちゃ断る理由ないよね?
2016/07/28

ページの端(pisforpage超短編)■刷り込み サイト未・なろう済

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※蔵出し新作その2。これにて連続投稿おしまい。



 部活の後で着替えて新しいコロンをつけたら、部室に入ってきた部長が大声で言った。

「なんかばーちゃんみたいな匂いしねぇ?」

 白檀系の香りはたしかにちょっとクラシカルだけれども!!!――と憤った私を引き連れ、部長が訪れたのは近くの病院。

「ばーちゃん! 生きてるか?」
「失礼な子だね。死ぬような病気じゃないよ」
「だよな、整形外科ってシップの匂いがさわやかだな!」
「帰れ」

 ベッドから身を起こした老婦人が手で虫を払うような仕草をした。
 が、部長は気にした様子もなく私の服を引いてベッドのそばまで近づいた。

「なあなあ、ばーちゃんが『もう売ってない』って言ってた昔の香水、これと同じ匂いだよな!」
「――おまえまさか通りすがりのお嬢さんを無理やり連れてきたんじゃないだろうね」
 老婦人が部長をにらみあげた。
「ちげぇよ、俺の後輩!」

 老婦人は私に向かって深く頭を下げた。
「この子の祖母です。大変ご迷惑をおかけしました。馬鹿孫に代わってお詫びします」
「いえいえ、ちょっとびっくりはしましたけど事情は聞いたので。これなんですがどうでしょう?」

 私が差し出したアトマイザーを両手で受け取ったおばあさまは、顔の前でそれを少し振って、手首に向かってひと吹きし、やがて、にこりと微笑んだ。

「ずいぶん経つのによく覚えてたね」
「な! 同じだろ? 俺大好きだったんだよばーちゃんの匂い」

 部長がにこにこしながら言った。
 思ったこと全部口からだだもれするし、しばしば不適切な発言をするけど、部長は優しいし面倒見もいい。
 部長の言う「ばーちゃんの匂い」に古臭いとか年寄り臭いという意味はないのだ、なかったのだ。……「祖母が使っていた、大好きだった香り」って言い換えは、たぶん部長には無理なんだろうなぁ。

 おばあさまは私に向かってふたたび深く頭を下げた。
「ご迷惑でしょうが、この香水を買える場所まで馬鹿孫を案内していただけませんか? 買い物メモ入れたかごでも首から下げていかせりゃいいんでしょうが、迷子になってその辺ぐるぐる回ってたどり着けないといけないのでお願いします」
 完全に部長を駄犬あつかいしたセリフに、思わずふきだしながら答えた。
「はい、大丈夫です」
 おばあさまは白い紙でお札をさっと包んで部長に渡し、小声で何か指示を出した。

 廊下に出たとたんに部長が言った。

「ばーちゃんがこの金で香水買ったあと、メシご馳走して家まで送れって」
「部長……いろいろ台無しです」
「あと『あたしの刷り込みに感謝しろ』って。どういう意味だろ?」

 ――――なんとなく意味分かっちゃうけど、部長には教えません。


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お付き合いありがとうございました。
ブログだと新→旧で読みにくい!という方は小説家になろう版でご覧ください http://ncode.syosetu.com/n5593dk/
2016/07/27

ページの端(pisforpage超短編)■水晶の鳥 サイト未・なろう済

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※蔵出し新作その1



 かつて母の実家には羽根の一本一本まで繊細に彫られた水晶の鳥があったそうだ。

 いわれを聞く母に祖母は「女中が掃除を怠けていないか確かめるために置いてある」とうそぶいていたらしい。

 女中は女中で「他の場所の掃除は手抜きでもこれを磨いておけば奥様は気づかない」とうそぶいていたらしい。

 やがて祖母が亡くなり、遺言で女中に遺されたという鳥の行方は分からなくなった。

 その話を聞いてから私は時々その後を想像した。

 例えば祖母亡き後も毎朝筋ばった手で水晶を磨き上げる女中の姿を。
 あるいは役目を終え、どこか高い高い場所から投げ落とされる鳥の姿を。

 そんな中で私がいちばん好きな想像は、さっさと鳥を売り払い、祖母から遺されたお金で悠々と世界一周の船旅に出る老女の姿だ。

 想像の中の彼女はきりりと背筋を伸ばし、羽根飾りのついた小粋な帽子をかぶり、手すりを磨く水夫の手際の悪さに口を出したくてうずうずしている。
 たぶんそんな彼女の背後では、道草をくっている祖母の霊がにやにやしている。



―――
明日で連続更新おわりです。
2016/07/26

ページの端(pisforpage超短編)■雪の日 サイト未・なろう済

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 目覚ましを止めても起こしてくれるから。
 彼の枕に顔を埋めて寝るのがすごく幸せだから、安心してた。

 今朝起きたら誰もいなくて「とうとう彼に見捨てられた!」って絶望でわんわん泣いた。

 雪かきから戻った彼に「なんで泣いてるの」って言われてまたわんわん泣いた。

*〜*〜*

 ごめんなさい、ちゃんとひとりで起きます。いい人になります。変わります。捨てないで。

 って泣きながらすがりつく彼女にドン引きする。

 ……寝ぼけて俺の枕くんくんする姿が目が開かない子犬みたいでかわいいから俺が目覚まし止めてる、っていまさら告白したら怒るよな、ぜったい。
2016/07/25

ページの端(pisforpage超短編)■夏氷 サイト未・なろう済

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「夏氷の日なんだって」
 そう言いながらこんもりと盛られた氷をスプーンですくう従姉。

「食べる?」

 差し出されたスプーンに背中を向けた。

 からかってるのは分かってるんだ。

 真に受けて俺が口開けたら、目の前で引っ込めて自分で食うつもりだろ。

*~*~*

 突然、冷たくて柔らかい何かを首筋に押し付けられ、出かけた悲鳴を飲み込んだ。

「おすそわけ」
 笑いを含んだ声が耳の後ろから響く。

 お前なんか大嫌いだ。
 俺のこと好きでもなんでもないくせに。
 俺のことなんて好きにならないくせに。

※夏氷=かき氷。7月25日は夏氷の日です。