2013/12/25

クリスマス・ウィッシュ (FIシリーズ アート×アンSS) 【サイト・なろう転載済

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閲覧&拍手ありがとうございます! 昨日、一足早いサンタさんが拍手を連打していって下さいました、プレゼントありがとう! クリスマスイブの今日は穴場だと思ってインド料理屋さんへ行ったら穴場すぎて貸切状態でした…。奥で賄い作ってる香りがスパイシーで美味しそうだった!

さて、表題ですがクリスマス更新ネタ考えてたらなんだかクリスマスから離れていったFIシリーズ、アートとアンのSSです! 子供の病気が出てくるのでお辛い方は閲覧を避けて下さい。大丈夫な方は追記からどうぞ!

皆さま楽しいクリスマスをお過ごしください♪


■クリスマス・ウィッシュ

「今週のどこかで非公式に病院の慰問に行きたいのだけど、時間を作れるかしら?」
 手元の予定表から顔を上げてアンが言った。アンは夫であるアートとその秘書と公務のスケジュールを調整しているところだった。
「どこの病院だ?」
 アートが訊いた。
 国王一家が王宮を離れるクリスマス休暇が近い。一部のスタッフは既に休みに入っている。急な予定の変更には人のやりくりが必要になるかもしれない。
「子供病院、セントラルの。以前お世話になった看護師さんが今そこで働いていて、手紙をくれたのよ」
 アンは手にした便箋を開いてアートに示した。入院中の子供が書いた手紙のコピーだった。そこには大きくのたくった文字で

親愛なるサンタ・クロースさま
今年のハロウィン・パーティーは病気で行けませんでした。私はお姫さまになるはずでした。クリスマスには私を本物のお姫さまにしてください。
あなたのサンドラより

 と書いてあった。
 アートは一読し、この願いはサンタ・クロースの専門外ではないかと思った。
「君が慰問に行くことがこの子の願いを叶えることになるのか?」
「その予定よ」
 どんな方法でこの子供を『本物のお姫さま』にするのか、そもそも『本物のお姫さま』とは何なのか、どちらもアートの想像の埒外だったが、どうやらアンはサンタ・クロースに代わって親切な妖精の役を引き受けることができるらしい。
「妃殿下が単独で外出されるのでしたら、木曜日か金曜日の午前中が宜しいかと存じます」
 アートの秘書、ケリーがアートに進言する。アートが頷いた。
「では金曜日の午前中でセントラル病院に連絡を」
 
 金曜日の朝、アンはカジュアルな普段着で病院を訪問した。病院の入口で待っていたのは病院の院長とアンに手紙を送った看護師ソフィア、それにサンドラの母親だった。
「アン王太子妃殿下、私達の願いを聞き届けて下さってありがとうございます」
「みなさん初めまして。久しぶりね、ソフィア。こちらこそ私のことを思い出してくれてありがとう」
 アンは朗らかに挨拶をした。院長を残してソフィアの案内で小児病棟へ向かうが、王太子妃が普段着でこんな場所にいるとはだれも思わないらしく気づく人はいなかった。アンは途中で空いた処置室に寄り、ソフィアから大きな包みと小さな包みを受け取った。
 
 ソフィアに案内された病室は四人部屋だったが中には一人しか患者がいなかった。他の三人はこの時間、院内学級で授業を受けている。
 ベッドから顔を上げた少女が、自分のところへやってくる見知らぬ客に目を丸くした。
「初めまして、あなたがサンドラね」
「あなたは誰?」
「私はアン」
「本物のお姫さまよ」
 ソフィアが横から言い添えた。サンドラの目だけでなく口までもが真ん丸になった。一瞬後にその口から悲鳴のような声が出た。
「本物の、お姫さま!?」
「そうよ。サンタ・クロースからあなたのことを聞いて、サンドラが本物のお姫さまになるアドバイスをしに来たの」
 アンは王太子妃らしい上品な笑みを浮かべた。王太子との婚約が決まってからさんざん練習させられたフォトジェニックな微笑みだが、これを教えるのは今回の目的ではない。
「私も前に入院してソフィアのお世話を受けたの。これがその時の写真」
 そう言いながらアンはミニアルバムをサンドラに手渡した。
 最初はソフィアと一緒に病室で撮った写真だ。少女の小さな手でページがめくられるたびに少しずつ髪型の違うアンが現れた。この頃日光を避けていたアンの肌は白い光を当てたように輝いていた。
 最後の二枚は、結婚式の時に撮った公式写真とバルコニーの挨拶の遠景だった。
 アルバムを閉じたサンドラは、ここにいるのがソフィアの友達で本物のお姫さまだと納得できたらしい。

「信じてもらえた?」
「うん」
「では贈り物を受け取ってね。まず私と同じこのプリンセスガウン」
 そう言ってアンはリボンをかけたピンクサテンのナイトガウンをサンドラに差し出した。
 サンドラの母親が娘に手を貸してガウンを着せかけた。フリルカラーのピンクが青白い頬に明るさを足す。キモノのように前を重ねてサッシュを結ぶと長い裾がパジャマの足元まで覆いロングドレスを着たようになった。
 アンもサイズ違いの同じガウンを自分の服の上に着ている。三十代の大人が着て歩くにはかなり気恥ずかしいデザインだが、アンは少女のためと割り切って自分がどう見えるかはできるだけ考えないようにしていた。
「そしてこのティアラをつけて」
 アンはそう言いながら自分がつけていたヴェールつきのティアラ(もちろん本物ではなくあらかじめ用意したおもちゃだ)を外し、サンドラの頭に乗せた。

 ベッドの上にはさっきまでの顔色の悪い病気の子供ではなく、喜びに顔を輝かせ、少しはにかんだ小さなお姫さまがいた。母親とソフィアが思わず歓声をあげる。

 サンドラの母がカメラを取り出し、撮影会が始まる。様々な角度から撮った中でも、まるで肖像画のような窓に頬を預けたソフトフォーカスの横顔は絶賛された。それにアンと一緒の二人のお姫さまバージョン、お母さんと一緒、ソフィアと一緒、全員での記念撮影……。
 撮影後、サンドラがきらきらした目でカメラのプレビューを覗きこみ一枚ずつ真剣に眺める姿に、彼女を囲む大人達はこっそりと涙を拭った。
 大人が、子どもの純粋な喜びに涙腺を刺激されるようになるのはいつからなのだろうか。アンは自分が病気だった頃は感情を昂ぶらせないように抑えてきたのもあり、ここ最近は自分がずいぶん涙もろくなったと自覚していた。

 やがて上気した顔を上げたサンドラが、アンに訊いた。
「アン王女はどうやって本物のお姫さまになったの?」
「サンドラには特別に、お姫さまになるためのスリーステップを教えてあげるわね」
「うん」
「まず最初のステップは病気を治すこと。その次のステップは大人になること。最後のステップは王子さまを見つけること」
「それだけで本物のお姫さまになれるの?」
「そうよ。私は最初のステップでずいぶん時間がかかってしまったけど、王子さまは待っていてくれたわ」
「私も、なれるかな」
 小さな小さな声で、サンドラが言った。
 サンドラが本当に言いたいのは別のことだとアンには分かっていた。
 この病室にいる全ての大人は、できることならサンドラを抱えて最初のステップを越えさせてあげたいと思っている。けれど、そのステップを越えるのに使えるのはサンドラ自身の力だけなのだ。
 喉元にこみ上げる感情を飲み込んでアンは力強く保障する。
「ええ。きっとなれるわ」
 
 王宮に戻ったアンは、いつものように生真面目な表情のアートに迎えられた。
「少し疲れているようだが」
 アートは無闇に世辞はいわないし微笑んだりもしない。けれどいつもその言葉には思いやりが込められている。アンは気持ちが緩むのを感じながら微笑んで答えた。
「疲れることは何もしていないけど、自分の無力を感じたせいかしら」
 アートが少し考えてから言った。
「私は大きな怪我も病気も入院もしたことがない。父が大きな怪我をした時も苦痛は想像することしかできなかった。君の見舞いに行っていた頃も、君がどういう気持ちで日々を過ごしているのか分からなかった。今日の慰問でアンが無力を感じたというのは、きっと君が病気の子供の気持ちを理解することができ、自分の身に置き換えてその辛さを感じられたからだろう」
 いつものようにアートは重々しい口調でアンに語りかけた。
「君は無力ではない。病気との長い戦いに打ち勝った君の存在は同じように戦っている子供に力を与えるはずだ。君自身がどんな励ましの言葉よりも価値のある存在だ」
 アンの頬が熱くなった。アート以外の誰かが口にしたら綺麗事だと反発すら覚えたかもしれない。でも夫の、揺らぐことのない陽の光のような言葉だけはどこからでもまっすぐアンの心に降り注いだ。
「そうなれたらいいと思うわ」
「もうなっている」
 アートはこれで話は終わったというように時計に目を向けた。その背中にアンが自分の額をつける。
「……どうした?」
「世界中の人が皆、幸せな今日を過ごせたらいいわね」
「クリスマスの願いごとか?」
「ええ。アーサーは何をお願いする?」
「では、君の願いが叶うことを」
 夫の背中に額をつけたまま、アンは心で祈った。
 ——親愛なるサンタ・クロースさま。もしも世界中の人の幸せが無理なら、私に背中を貸してくれるこの人に幸せな今日をお願いします。

end.