2014/12/25

Gift Exchange, No White Elephant 【サイト・なろう未転載

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Happy Christmas!

「フライディと私」シリーズの四兄弟クリスマススペシャル短編です。

・小説家になろうさんでお読みの方には今後のストーリーのネタバレがあります。
・サイトでお読みの方にも本編が追い付いてないほんのちょっと未来の話になります。

以上、ご了承の方のみ続きからどうぞ。

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■Gift Exchange, No White Elephant (プレゼント交換会-白い象はお断り)



「今年のクリスマスに新しい趣向を考えたんだ。プレゼント交換をしようよ!」

 朝食の席でのチップの提案に真っ先に異議を唱えたのは、パンにバターを塗っていたエドだった。
「ホワイト・エレファント・ギフト・エクスチェンジ? 僕は嫌だな」

 ホワイト・エレファント・ギフト・エクスチェンジというのは、みんなで予算を決めて持ち寄ったプレゼントをくじで決めた順番に一つずつ貰っていく──ただし自分の貰ったプレゼントより他の人が貰ったプレゼントの方が良ければ強制的に交換していい──というルールのパーティゲームだ。
 人数の多いパーティでは非常に盛り上がるのだが、力関係のはっきりした兄弟同士のパーティでこれをやられるとエドには一番つまらないプレゼントが回ってくることがほぼ確定してしまう。

 しかしチップが考えていたのは違う方法だった。

「ホワイト・エレファントのいないプレゼント交換だよ。予算を決めて自分のパートナー以外の男性、または女性に贈るんだ」
「それぞれ自分のパートナーに贈るんじゃ駄目なの?」
 エドの言葉には、自分の妻に他の兄弟からプレゼントが贈られるのが面白くないから賛成できない、という気持ちが分かりやすく透けていた。

「それとは別枠だよ、もちろん。今まではベンにパートナーがいなくてこういうゲームができなかっただろう? それにこれならまだ付き合いの浅いトリクシーをいくつものプレゼント選びで悩ませずに済むだろう? 何よりもこの方法なら、ベスがお前以外の男から貰うプレゼントは三つから一つに減るんだぞ」
 おそらく一番最後の理由から、エドはもう反対を唱えなかった。

「予算は?」
 エドが訊いた。
「そうだな……ベン、トリクシーの好きな数字は?」
「ゼロ」
「最悪だな!」
 思わずそうこぼしたチップを、ベンが目つきひとつで黙らせた。
 チップに代わってエドが続けた。
「じゃあプレゼントは買ったもの以外の何かということで……手作り品の材料くらいはいいことにする?」

 会話には参加していなかったがアートが何も言わないのは賛成と見做し、ベンもトリクシーの負担が減ると聞けば反対するはずがないということで、チップは兄弟にパートナー達の分までクジを引かせてプレゼントを贈る相手を決めさせた。

§ § §

 こうしてクリスマス直前のある週末の夜、四王子とそのパートナーがホワイト・エレファントなしのプレゼント交換会のために、メルシエ王宮の小ぶりな応接間に集まった。

 クリスマスプレゼントを開けるのは小さい子から、ということで最初は最年少のキャットへのプレゼントからだった。
 クジで選ばれた贈り主が前に進み出た。アートだった。
 可愛らしい模様が描かれた箱を差し出されたキャットが、お礼を言ってリボンを外し、蓋をあけた。
「うわーい!」

 喜ぶキャットの背後で、弟王子二人の顔からは表情が消えていた。
「……これは予想外だったな」
「うん、まさかアートがこういうものを選ぶとは」
 チップとエドの二人は、長兄の手作りクッキーという世にも珍しい代物を何か恐ろしい物体のように眺めた。

 さすがに王太子にもみの木や星型の抜き型を渡す勇気のある者は誰もいなかったらしい。コップで抜いたような何の変哲も無い丸だけだったが、確かにメルシエ王太子が手ずから焼いたクッキーがレースペーパーを敷いた可愛らしい箱に詰められていた。この箱を選んだのはアートではないと信じたいところだ。

「ありがとうアート! 作るの大変じゃなかった? 普段から作ってるの?」
 キャットは屈託なくお礼と一緒に、ベーカリーの娘にとってはごく当たり前の質問をした。
 しかし下の弟二人はアートがエプロンをして粉をふるったりミトンをはめて天板をオーブンから出したりする姿を想像して肩を震わせた。
「いや」
「初めてにしては上手だったわよ。手伝いましょうかって言ったけど、全部一人で作ったのよ」
 短いアートの返事を補ってアンは誇らしげに語り、チップとエドに呼吸困難を起こさせた。

 そんなこととは知らずアンは、天板の隅に並べて焦げてしまったクッキーと牛乳で、二人でおままごとのような楽しい夕べを過ごしたのを思い出して小さく微笑み、そのアンにアートが微笑み返し、息をしてない二人以外の皆はクリスマスらしい和やかな気分を味わった。

 次に男性の最年少、エドへのプレゼントがアンから手渡された。
 エドはにこやかに感謝を告げながら渡された紙の束を開き、いきなり叫び声をあげた。
「うわあ、うわあ、うわあっ!!」
「ベス、変な動物を連れて来るなよ」
 そう言って大笑いするチップをひとにらみしてからベスがアンに訊いた。
「あれは何?」
「実家にあった一番古い写本のコピーよ。珍しいものだったのかしら?」
 ラテン語なら専門だから好きだろうと気軽に持ってきたアンに、エドが壊れた人形のように何度も首を振って頷いた。
「これと同じ写本がトリニティ」
 勢い込んで言いかけたエドをチップが止めた。
「お前の話は長くなるから次に行こう」

 次はベスの番だった。
 贈り主として前に出たチップの顔を見て、ベスがあからさまに顔をしかめた。
「あなたなの」
「そんなに嬉しそうな顔するなよ、ベス。これが僕から君への贈り物だよ」
「ヘビの抜け殻じゃないでしょうね」
 忘れたくても忘れられない子供時代の思い出をあてこすりながら、ベスが贈られたカードを開いた。

 ベスのしかめられた顔が、ふっと柔らかくなった。

「何が書いてあるの?」
 ラテン語の世界から戻ってこないエドの代わりに、キャットがベスに訊いた。
「数式……? 詩……?」
 ベスはこれが何なのかうまく説明できなかった。代わりにチップが言った。
「ベスとエドの誕生日の数字から二人の結婚記念日を導き出す式だよ」

 詩のようなセンテンスの途中に現れる難解な式が理解できるのはそれを書いたチップ本人だけという代物だったが、ベスは今までチップから貰った中で一番素敵なプレゼントだったとお礼を言った。ヘビの抜け殻と比べたらどんなプレゼントでも素敵にみえる、と言うのも忘れなかったけれど。

 次はチップが贈り物を受け取る番だった。
 そこへさっき下がったばかりのベスがまた進み出た。
「これはヘビの抜け殻を覚悟するべきかな」
 大げさに脅えるチップに、ベスがにこやかに言った。
「気に入らなかったらヘビの抜け殻と交換してあげるわ」

 差し出された四角い薄い包みを開いて、チップは歓声をあげた。
「やった! 僕が一番欲しかったものだ!」

 厚みのある台紙の間から出てきたのは、パステルで描いたキャットの絵だった。
 もちろん腕前の方はプロに及ばないが、ベスにはモデルの普段の姿を知っているというアドバンテージがあった。その絵は写真には写らないキャットの生き生きとした表情をうまく捉えていた。

「ありがとう、ベス。一番いい場所に飾らせてもらうよ」
 チップは珍しくジョークのひとつも交えずに心からの感謝を告げた。

 ベスはいつチップが話を混ぜ返すかと身構えていたが、チップが本気で喜んでいるのを見てなんだか騙されているような気分になった。モデルのおかげで評価に加点されているのは承知しているが、光の当たり方や苦労した瞳の描き方まで細かく気づいてもらえてベスはチップをいい人だと思いそうになり、危ういところで思いとどまった。

 そんなベスの心情はともかくとして、次はトリクシーの番だった。
 自分のパートナー以外からのプレゼントとなると、消去法でもう贈り主は決まっている。……肝心のその相手は紙の束に夢中だったが。
 軽い咳払いでエドの注意をひいたベスが、夫の手から紙の束を取り上げた。ようやく現実に戻ってきたエドはあわてて部屋の隅に置いた楽器を取りに行った。

 す、と弓を構えたとたん、エドは呼吸まで変わった。いつもの末っ子らしい控え目な態度から、自信に満ちた演奏家の顔になる。

 今回エドがトリクシーのために弾いたのはヴィヴァルディの「海の嵐」だった。海の女王の娘のためには海にちなんだ曲、という選曲の安易さについてはこの際置いておく。
 三分ほどの演奏の間、贈られたトリクシーだけでなくその場にいた皆が渦巻く波のような音の奔流を楽しんだ。

「素晴らしいわ、ありがとう」
 トリクシーは演奏を終えたエドに拍手と賞賛を送り、隣にいるベスに言った。
「素敵な旦那様ね」
「トリクシーの旦那様だって!」
 すかさず褒め返すベスに、トリクシーはぼそりと言った。
「無口すぎてよく分からないのよね」
 遠慮もなく笑い出した弟たちには一瞥(いちべつ)もくれず、ベンはトリクシーの腕を掴んで自分の隣に引き戻し、何事か囁いた。トリクシーの顔がさっと赤らんだのを見て、周囲の半分は肩をすくめて目をそらし、残りの半分は遠慮のないにやにや笑いを浮かべた。

「ほら、次はベンだよ。そういうのは後にして」
 弟にそう言われてもベンは急がず部屋の中央に進み出た。そこに贈り物を持ってきたのはキャットだ。
「昔のパンなの」
「ト?」
 ベンは一目で正体を見分け、キャットがぱっと笑顔になった。
「そう!」
「ありがとう」
「うん」

 そのまま無言で満足げな笑みを交わして終わりそうな二人の間にチップが乱入した。
「ロビン、いつものおしゃべりな君はどこにいった? 何を贈ったのか僕たちにも分かるように説明しろよ」
「うん? えーとね、これは古代エジプトのパン」
 それがイタリアから取り寄せた古代のエンマー小麦と天然酵母を使った特別なパンであることを、キャットは説明しなかった。パンに関しては蘊蓄(うんちく)を語るな、味で語れという父の教えを守っているのだ。
「ベンはどうして分かったんだ?」
「書いてある」
 ベンがパンの上に書かれた、いや、描かれた線画を示した。子供が描いたミートパイのようなそれは、パンを表す「ト」のヒエログリフだった。
「うん、全然分からない」
 チップはちらっと眺めたあと、すぐに腕の中に収めたキャットに言い聞かせた。
「あんまりベンを甘やかしちゃ駄目だ。ちゃんと発語の練習をさせないと『おはよう』と『おやすみ』以外喋らなくなるぞ」
「それうちのお父さんだ!」
 キャットの心からの叫びに、皆が一斉に噴き出した。言われたベンも一緒に笑っている。

 笑いの波が収まったところで、アンの順番が回ってきた。
 ベンが嵩張った細長いプレゼントをアンに手渡した。包装を破ったアンは確信なさげに言った。
「望遠鏡?」
「天体望遠鏡。アートが、アンは月が好きだと言っていたから」
「予算ゼロの筈だろう?」
 チップの指摘にも、ベンは動じなかった。
「材料費はいいんだろう?」
「えーっ? それ手作りなのー!?」
 皆の思いをキャットが代弁した。

 凝り性のベンではあるが、さすがにレンズ磨きから始めはしなかった。ベンが贈ったのは、手作りでキットから組み立てた天体望遠鏡だった。
「あまり精度は高くないが、月くらいはちゃんと見える」
「ありがとう、ベン」
 さっそく皆でテラスに出て、ベンが角度を合わせてアンに場所を譲った。
「大きいのねえ!」
 月を見たアンの、子供のような無邪気な言葉に皆が笑った。

 代わる代わる望遠鏡を覗く兄弟たちから少し離れた場所で、アンがアートの腕に手をかけて言った。
「ありがとう、アーサー」
「何がだ」
「私が月が好きだって、ベンに言ってくれて」
「──月の晩に散歩をしたな」
 二人は静かに月を見上げ、ここまでの長い年月を静かに思い返した。……そのすぐ横では、自分も望遠鏡が欲しいというキャットのために、チップが天文ドームを作る壮大な計画を打ち立てて大騒ぎしていたけれど、アートだけでなくアンも近頃は余計な騒音をミュートする機能を身につけていた。これは男兄弟の中で暮らすには必要な機能だ。

 皆がひととおり月を眺めて満足したところで、彼らは再び元の部屋に戻ってきた。

 最後のアートへのプレゼントは、トリクシーから贈られた。

「私からはお守り(アミュレット)を」
 トリクシーが、アートに小さなガラス瓶を渡した。瓶の首には細い紐が巻いてあった。
「中には何が?」
 アートが瓶を目の高さに掲げて光に透かした。
「空よ。この瓶に故郷の水を入れて身につけていれば、水難よけになるってことになってるわ。土産物としてたくさん売ってるけど、これは本物」
 詐欺師のような滑らかな口上をアートは追及しなかった。
「なるほど」
 トリクシーが続けた。
「もちろん本物というのは確実に効果があるという意味ではなくて、本物の祝福を受けているという意味よ」
「ああ。明日、外の堀の水を入れることにしよう」
 トリクシーはさらに続けた。
「これは決して私がスーパーナチュラルやスピリチュアリズムを信じているためではなく」
「ベンが選んだんだろう」
「そう!」
 トリクシーが力強く頷いた。アートが苦笑した。
「……面倒をかける」
「……ええ、本当に」
 二人はその短いやり取りで分かる人にしか分からない苦労を分かち合った。
 この様子からすると、ベンが自分の分はないのかと訴えてトリクシーから泥足で戻ってきた犬のような扱いを受けたこともアートは察していそうだった。

§ § §

 それぞれに工夫した嬉しい贈り物をもらった彼らは、義兄弟、義姉妹(予定も含む)のことをかなり理解し合い、それぞれがパートナーとの関係も円満であると再確認でき楽しんだようだ。クリスマスのパーティゲームとしては最良の結果だ。

「自分が一番良いプレゼントを貰った人と思う人は挙手」
 そう言ったチップは真っ先に手を挙げた。皆も負けじとそれに続き、八本の手が上がった。

「じゃあ自分が贈ったプレゼントが最高だと思う人は更に挙手」
 チップがもう片方の手も挙げ、全部で十六本の──

「そこ、つないだまま上げてる手はカウント外」
 チップの指摘に振り返った皆の視線がEのイニシャルをもつ二人に集まり──部屋は冷やかしと笑いと幸せで満ち溢れた。

end.(2014/12/25)

「チップとキャット」にも登場したホワイトエレファント、再び。
ちなみにヒエログリフのトはこんな字です(ページのP:画)
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