2015/07/23

異類恋愛譚 第六話(異世界ファンタジー 超短編 アラクネ) 【サイト未・なろう済

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ブログに更新してない広告が出ちゃったのでショートショート未満で、以前書いた異類恋愛譚を一話追加してみます。
×人外、ややダーク、蜘蛛注意で追記からどうぞ。

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異類恋愛譚 第六話


 むしゃぶりつきたくなるほどいい女だった。

 横顔を見せて逃げる女を追いかけないと、一生後悔すると思った。

 その時の俺は「森の中で綺麗な女を見かけても追いかけてはいけない」なんて言い伝えを信じるほど
初心
うぶ
ではなく、古い言い伝えには真実が込められていると悟るほど老成してもいなかった。
 女の後を追い、太い木の幹を回り込んだところで首の後ろにチクリと痛みを感じ、身体の自由を失った。

 女は、否、美しい女の上半身と蜘蛛の下半身をもつアラクネは素早く糸を出し、動けなくなった俺をくるくると梱包して木の根がつくった

うろ
に引きずり込んだ。

 穴の奥には他にも俺と同じような、糸で梱包した塊が転がっていた。
 その塊がのろのろとこちらに顔を向けるのを見て、ああ、死んではいないのかと考えた。
 身体と一緒に感情も痺れたように鈍くなっていた。声を上げたり恐怖に怯えたりする必要は全く感じていなかった。

 アラクネの、人間の女に擬態した感覚器官に過ぎないのかもしれない上半身は、俺のその鈍った感情をも動かすほど美しかった。あの背中から腰の曲線。重たげなふたつの膨らみ。白い喉元。
 その口には食料を噛み砕くための歯は備わっていなかった。たった二本の牙は、獲物を麻痺させる毒を注入するためだけのものだった。その口でアラクネは俺に巻き付けた糸を解いて飲み込んだ。
 そして、動けない俺の上に覆いかぶさり細かく身体を振動させた。

 その後の出来事が本当にあったことなのかどうかは、今もはっきりとは分からない。

 夢か

うつつ
かも分からない時間は、今まで感じたこともない快楽を俺に与えた。
 俺はひたすらに涙と涎を垂らし、アラクネの奇妙な踊りに合わせて身体を揺すぶった気がする。声を嗄らして叫んだ気がする。
 痺れた身体を無様に転がしたまま長い長い夢を見ただけのような気もする。

 洞の中が明るくなった時、アラクネはいなかった。
 狐狸の類に化かされたのではないことは、腹の上に糸で張り付いた卵が証明してくれた。

 俺と同じ洞に残された男たちは、朝を迎えた娼館から出る時のようにきまずい顔で目を合わせずにそれぞれ別の方向へと散った。

 町へ帰るとすぐ、俺は荷物をまとめた。
 この卵を、できるだけ離れた場所に運ばなくてはいけない。
 それが自分の役目だと、俺は言葉ではない方法で理解していた。

 この卵から生まれるのはきっと、母親によく似た娘だろう。
 大切に大切に育てたら、また俺に卵を託してくれるだろうか。
 記憶の中の女が、俺を励ますように微笑む。

 もっと遠くへ。
 人の多い町に近い森へ。
 大切な卵を。

end.(2015/07/23)